GaRiYa Essay

ごめん、ごめん、ごめん… vol.283

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    金糸狼ちゃんが、死にました。
    猛暑の続く、七月二十五日の朝でした…。

    その日、金糸狼ちゃんは朝ごはんを食べませんでした。
    たったそれだけのサインでしたが、日頃から元気ぶりには手をやくほどの子でしたから、異変にはすぐ気づきました。

    かかりつけの病院は十時まで開きません。
    「金糸狼ちゃんを病院に連れて行って!」
    と母に押しつけて、家を出ました。

    その日はなにしろ、待ちに待った新人たちの初出社日でしたから、
    「猫が病気で、遅れます」
    というわけには、いかなかったのです。
    また、まさか、そこまでの重症とは思えなかったのです。

    そうして十時を少し過ぎた時、母から、電話が入りました。
    「死んだよ!」

    私は、あたりはばからず、悲鳴をあげました。そして、
    「ごめん!ごめん!ごめん!ごめん!…」
    と、百回くらい絶叫を繰り返したでしょうか。
    二百回くらい繰り返したでしょうか。
    三百回くらい繰り返したでしょうか…。

    金糸狼ちゃんは、あんまり猫らしくない猫でした。
    子犬のような好奇心で、いつも駆け回っている猫でした。
    そのせいか、すっかりイジメられっこになっていました。

    ついには、仲良しだったナンシーちゃんからまでイジメられるようになって、安全のためとは言えケージの中で、ポツンと過ごさせる時間が増えていました。
    夜は部屋に移しますが、そこでもやはり、ヒトリぼっちでした。

    私の夜は、そんな金糸狼ちゃんと猫じゃらしで遊ぶのが日課でした。
    棒を上げ下げすると、糸の先についた玉が上下して、そこに金糸狼ちゃんが、ピョンピョン・ピョンピョンって、飛びつくのです。

    他のこたちは、
    「ヘッ、そんな子供じみた遊びはよしてくれよ」
    みたいな態度でしたが、金糸狼ちゃんだけはいつだって、初めてのことのように、騙されてくれました。
    むしろその時間を、楽しみにしているようでした。

    でも、私がサボるようになりました。
    急激なスタッフ不足で、深夜帰りが続いたからです。
    家に帰れない日もありました。

    しかし七月二十四日の夜のことは、言い訳できません。
    疲労も抜けて帰宅も早く、金糸狼ちゃんと遊ぶくらいのゆとりは、充分にあったのです。
    にもかかわらず、どうしたのでしょう!
    頭をちょっと撫でただけで、
    「金糸狼ちゃん、おやすみ」
    と、寝室に、直行してしまったのです。

    どうして遊んであげなかったのか!?
    重病の金糸狼ちゃんを置いて、どうして仕事に行ってしまったのか…!

    心の中で、まだ
    「ごめん!ごめん!ごめん…」
    が止まりません。

    金糸狼ちゃんは眠っているようで、驚くほどに愛らしいままでした。

    P. S.
    ガリヤの生みの親として、その命を守るのは、私の勤めでした。今ようやく元気を取り戻したオフィスに居て、ふと、金糸狼ちゃん、身代わりになってくれたのかも…とか、思ったりもしています。
    合  掌

    (長澤 由起子)

    写真キャプション►金糸狼ちゃんです。