GaRiYa Essay

がんばったんだね…片目のムー Vol.20(通算Vol.311)〜マイ スウィートライフ ウィズ キャッツ〜

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    「この頃、ムーが来ないね…彼女でもできたんだろうか?」
    「…にゃ」
    「だったらいいんだけど…」
    一抹の不安がよぎりました。
    ムーというのは、サプリ(不妊済)がつきあっている野良ちゃんです。
    庭の銀杏にかけ登って、枝先からバルコニーにヒラリ飛び移り、
    「ア〜」
    …と、サプリを誘います。
    ついでにゴハンを食べて、ひと休みして、消える、というパターンですが、いったいどこに帰るのやら。
    愛想なんぞカケラも無く、威圧オーラ、バンバン発しまくりなので、野良ちゃんとしては不利な性分なんですが…。
    そんなムーが顔を出したのは、姿を見なくなって十日も経った頃の深夜でした。
    その日は雨で、おまけにひどい落雷…
    ピカッ!……ドッカ〜ン!
    ピカッ……ドッカ〜ン!
    ピカッ…ドッカ〜ン!
    ピカッドッカーン!
    夜になると、サプリが妙に外を気にしています。
    「ニャ〜(出して!)」
    「だめ」
    「ニャ〜(出して!)」
    私はすぐ譲歩します。
    「すぐ戻るのよ」
    と、送り出しました。

    しばらくして玄関ドアを開けると、サプリが待ち構えていました。そしてサッと、闇の中に走り、そして、
    「にゃ……」


    誰かを連れてきました…ムーです。
    「久しぶりだね!待ってて!直ぐゴハン持って来るから!」
    そして玄関前で待つムーの前に、
    「いっぱい食べなさい!」
    と、カリカリを置いたのですが、口をつけません。
    そこで次は猫缶です。
    「さあ食べなさい!」
    ところが、これにも口をつけません。
    「あれっ、おなかいっぱいなの?」
    「…………にゃ……」
    ムーらしからぬ、弱々しい声です。
    「ムー、どうしたの?」
    と、その時でした。
    「ギャアッ!」
    玄関の小さな灯りが、ムーの、変わり果て
    たシルエットを捉えたのです。
    夜明けを待って病院に駆け込むと、即入院です。衰弱があまりにも酷く、重度の脱水ということで、なんと、治療不能というところまできていたのです。
    点滴を続けて三日後。やっと手術が可能になりました。
    そしてムーは、右眼球を失いました。
    「もう野良は無理でしょう、ハンディがあるから、」
    というのがT先生の見解ですが、
    「アンタ、モトがコワモテ(強面)じゃん、ハクがついたっていうか」
    「にゃっ!」

    と、前向き(?)です。
    しかし、
    「あと一日遅かったら死んでましたよ」
    と、T先生…。
    猛暑の中、豪雨の中、雷雨の中…ムーはそんなギリギリまで、いったいひとりで、どんだけがんばっていたんでしょう。
    どんだけ痛くて苦しくて心細かったでしょう。それでもムーは癒える日を信じて、こらえていたのです。
    たぶん様々なことでこらえてきたから、こらえるのが得意だったのでしょう。
    でも今回は勝手が違いました。こらえてもこらえても、ちっともラクならない…。
    それでムーは最後のチカラを振り絞って、ヨイショッと、立ち上がりました。生きるためのヨイショッです。
    そして、落雷の中を歩き出しました。ズブ濡れになってもヨロヨロヨロヨロ…歩き続けました。
    ほんとうにほんとうに、がんばりました。
    退院してきたムーは今、我が家でのんびり療養中というわけですが、
    「そろそろ観念して家族にならん?」
    「………」
    さてさて、どうなりますことやら。